目次
はじめに
- 血液検査は、疾患の診断や治療の効果を評価する際に不可欠であり、その正確性は患者の治療に直結します。
- 採血の手順は単純に見えるかもしれませんが、実際には様々な技術と注意が必要です。
- 適切な採血の手順を遵守することで、信頼性の高い結果を得ることができます。この記事では、採血における注意点について詳しく解説します。
よく採血する肘窩の解剖
- 正中神経や各皮静脈の走行は、個人差が多い
- 肘正中皮静脈や尺側皮静脈を狙ったとしても、上腕動脈や正中神経は皮下の浅い部位を走行している
- 日本人成人67名を対象に、超音波を使用して肘関節領域の解剖学的構造を評価したところ、全被験者で正中神経が上腕動脈の尺側1.5cm以内の領域に位置していることが明らかになった2
注意すべき穿刺部位
サンプリングの手技が検査値に影響する
- 駆血時間は1分以内であれば、通常の検査項目への影響は少ない
- 2分程度の静脈鬱滞では乳酸濃度は変化しないが、ピルビン酸は有意に低下する(約20%)。
- 何度も手をグーパーさせる(clenching)と、血清カリウム値が上昇する3
- 各採血管に応じた適切な採血量を守る3
- 血球数算定用採血で採血量が多すぎると、採血管内の空気が少なくなり混和がうまくできず、測定血球数に狂いが生じる。
- 凝固検査や赤血球沈降速度検査では、抗凝固剤と血液量との比を注意する(後述)。
- 翼状針で採取する場合、1本目は接続チューブ内の空気混入により採血量が少なくなるため避ける。
- 凝固検査の場合、1本目の採取では注射針穿刺により組織液(トロンボプラスチン)が混入し血液凝固を促進させて凝固時間が実際より短くなってしまう場合がある。
溶血をふせぐには
- 皮膚の消毒後は十分乾燥するまで待って穿刺を行う。
- 23Gより細い針は使わない。
- 血腫部位からの採血は行わない。
- 注射器採血の場合、気泡が混入しないよう針が注射器にしっかりと接続されていることを確認する。
- 注射器採血の場合、内筒を強く引きすぎない。
- 採血管の転倒混和の際、強く振りすぎない。
採血管の順番
真空管採血で複数の採血管に採血する場合は,次の順番で行う(ただし,➊凝固と➋生化学の順序はどちらが先でもよい)
注射器採血(分注)の場合は,➊➡➌➡➍➡➎➡➋➡➏の順番で行う.
採血管と試薬についての豆知識
血清検査→ プレーン採血管(凝固促進剤入りの場合もあり)
[項目]生化学検査(肝機能検査、腎機能、脂質検査等)、免疫検査(自己抗体等)、ウイルス抗体検査、腫瘍マーカー等
血漿検査→項目によって抗凝固試薬が決まっている
[項目]凝固検査(PT/INR,aPTT、Dダイマー等)→血液:クエン酸Na=9:1
(クエン酸が血液中のCa2+と結合し、凝固活性を阻止する)
全血検査→項目により抗凝固薬が決まっている
[項目]血算→EDTA-Na
(EDTAで、凝固作用を有するCa2+をキレートすることで凝固を強力に阻止する。まれに試験管内で血小板が凝固する「偽性血小板減少」を誘導する)
[項目]血液ガス→ ヘパリン
(ヘパリンはアンチトロンビン活性を上昇させ、抗トロンビン作用による凝固阻止作用を有する。またヘパリンはpHを安定化させる)
[項目]血糖→ フッ化Na
(フッ化Naは解糖系酵素を阻害するため、糖の減少を阻止できる)
参考文献
- 心臓外科医が描いた正しい心臓解剖図 増訂版 末次 文祥 (著)
- Ohnishi H, Urata T, Kishino T, Takano M, Watanabe T. A novel maneuver to prevent median nerve injury in phlebotomy. Ann Intern Med. 2009 Aug 18;151(4):290-1. doi: 10.7326/0003-4819-151-4-200908180-00023. PMID: 19687503.
- https://jslm.org/books/guideline/2018/02.pdf
- 病気がみえるvol.5 血液