内科系 医学

腸腰筋膿瘍〜psoas徴候と血培2セットを〜

腸腰筋のおさらい

  • 腸腰筋は「大腰筋」と「腸骨筋」よりなり、「後腎傍腔」の背側を走行する。
  • 大腰筋は第1~4腰椎、腸骨筋は腸骨窩に始まり、大腿骨小転子に至る。
  • 機能:股関節の屈曲を担っている。

 

 

 

腸腰筋膿瘍

本邦での頻度は不明。CTやMRIの発達により増加傾向と考えられる。英国では100万人あたり4例の頻度である1

起因微生物は Staphylococcus aureus,Escherichia coliが多い

腸腰筋膿瘍は一次性と二次性に分類される2

一次性

糖尿病、慢性腎不全や担がん患者などの免疫抑制状態で、遠隔臓器に感染した菌が血行性やリンパ行性に腸腰筋に達し発症する

二次性

  • 近接臓器の感染が、直接腸腰筋に波及して発症する。
  • 消化管からの波及では、クローン病の穿通が多いと言われる。クローン病の0.4~4.3%に腸腰筋膿瘍を発症すると言われ、クローン病患者が腰部や臀部の疼痛を訴えた時は本疾患を想起する3
  • 化膿性脊椎炎,腸腰筋膿瘍,脊髄硬膜外膿瘍の 3つは互いに合併する
    • この3者のうち脊髄硬膜外膿瘍が最も神経学的予後に影響を与えるため,化膿性脊椎炎または腸腰筋膿瘍の患者を受け持つ場合は常に神経症状の出現がないかを注意深くフォローアップすることが大切4

症状・所見

  • 発熱、腰背部痛、跛行を認めるが、原因がわからず不明熱として扱われる場合がある
  • 痛みのため、仰臥位で膝を屈曲させ、股関節を軽度外転させた姿勢(腸腰筋肢位:psoas position)をとる5
    • 化膿性股関節炎の場合は、逆に屈曲させると痛みが増悪するため鑑別となる。

 

  • 股関節を進展させると痛みが誘発されるpsoas徴候が陽性になる(右側では虫垂炎の所見としても有名)6

 

 画像所見

造影CTとMRIが診断に有用である

積極的に本疾患を疑う場合よりも、むしろ原因不明の発熱やCRP高値もしくは腰痛があり、CTやMRIで偶発的に発見されるパターンが多いと考えられる。

筋肉内膿瘍に対して、CTや超音波も役立つがMRIが最も推奨される。MRIの方がCTよりも腹腔内膿瘍に対して高い感度がある。

造影CT

 

造影MRI

 

治療

  • 原発巣があれば、原発巣の治療を同時に行う
  • 抗菌薬
    • 治療が長期に及ぶため、血培2セットは基本的に全例行う3
    • 経験的治療よりもGram染色や培養結果に基づく抗菌薬選択が望ましい。
    • 経験的治療を行う場合は、Staphylococcus aureusに対する抗菌薬に加えて、腹腔内に原発巣がある際に嫌気性菌を含めた腸内細菌科細菌に対する抗菌薬を使用するかどうか検討する。
  • ドレナージ
    • 超音波もしくはCTガイド下経皮的ドレナージをまず検討する。
    • 膿瘍が大きい際は、ピッグテールカテーテルを挿入し、排液量が少量になるまで、もしくは画像上膿瘍が縮小・消失するまで留置する。
    • ドレナージを行わず抗菌薬単独での治療は失敗に終わる場合がある。ただ、膿瘍径<3cmなら抗菌薬単独でも治療が成功するのではないか、という報告がある37

 

 

予後

未治療の場合、死亡率はほぼ100%に達する。治療介入しても、死亡率は原発性膿瘍では2.4%、続発性膿瘍では19%である8

 

 

参考文献

 

1:Bartolo DC, Ebbs SR, Cooper MJ. Psoas abscess in Bristol: a 10-year review. Int J Colorectal Dis. 1987 Jun;2(2):72-6. doi: 10.1007/BF01647695. PMID: 3625011.

2全科 ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド 窪田 敬一 (編集)

5さらに!一発診断100 (プライマリケアの現場で役立つ) 宮田靖志、 中川紘明

6身体診察 免許皆伝: 目的別フィジカルの取り方 伝授します 平島修, 志水太郎他

3:今日の臨床サポート

8:Mallick IH, Thoufeeq MH, Rajendran TP. Iliopsoas abscesses. Postgrad Med J. 2004 Aug;80(946):459-62. doi: 10.1136/pgmj.2003.017665. PMID: 15299155; PMCID: PMC1743075.

7:Mallick IH, Thoufeeq MH, Rajendran TP. Iliopsoas abscesses. Postgrad Med J. 2004 Aug;80(946):459-62. doi: 10.1136/pgmj.2003.017665. PMID: 15299155; PMCID: PMC1743075.

4病態生理と神経解剖からアプローチする レジデントのための神経診療 塩尻 俊明、 杉田 陽一郎

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