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PPIやボノプラザンは腸管感染症を引き起こす?

プロトンポンプ阻害薬(PPI)とボノプラザン(P-CAB)とは

  • 胃酸分泌は,胃の壁細胞上のプロトンポンプ(H+/K+ ATPase)によって行われている.
  • プロトンポンプはATPの加水分解エネルギーにより,壁細胞外のK+と壁細胞内のH+を交換することで,胃管腔内へ胃酸のH+を分泌する
  • 両方ともに胃酸を産生する壁細胞のプロトンポンプのαサブユニットに結合し、強力な胃酸分泌抑制作用を示す。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)

  • 従来型PPI(オメプラゾール,ランソプラゾール,ラベプラゾール,エソメプラゾール)は血中に移行した後,胃の壁細胞から分泌され,胃酸と反応して活性体となる1
  • 活性体のPPIは,細胞膜に存在するプロトンポンプのSH基とジスルフィド結合することで,酵素活性を阻害し,胃酸分泌を阻害する.

 

ボノプラザン(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー;P-CAB)

  • ボノプラザンは,K+イオンに競合してプロトンポンプを可逆的に阻害することで酸分泌抑制作用を発揮する1.
  • 従来のPPIと異なり,胃酸による活性化を必要としないため,作用発現が速やかである.
  • また,PPIよりも酸による分解を受けにくいため,長時間作用が持続する→夜間の制酸作用も持続する
  • 従来のPPIと異なり,代謝酵素CYP2C19により代謝されず、個人差が少ない

 

PPIやボノプラザンは腸管感染症を引き起こす?

  • 唾液中には10^8/ml程度の細菌が存在するが、胃液による殺菌作用により、胃液中では0~10²/mlにまで減少する2
  • 胃酸分泌を抑制すると殺菌作用は減弱し、胃液中の細菌数は増加する.
  • 腸管感染を引き起こす細菌には胃酸に強く、pH 2.5程度の酸に耐えうる大腸菌や赤痢菌のような菌腫と、酸に弱くpH 3.0程度で死滅してしまうサルモネラ菌やカンピロバクター、ビブリオ、Clostridioides difficileのvegetative form(栄養型)などの細菌種がある.
  • 胃酸に強い菌では、経口感染したときに、胃液での殺菌効果は期待できないため、PPIを投与し、胃酸分泌が抑制されても感染リスクは変わらないと考えられる。
  • しかし、サルモネラ菌やカンピロバクター、ビブリオ、Clostridioides difficileなどの酸に弱い菌ではPPIによって酸のpHが上昇すれば、細菌の生存率が高くなり、腸管感染を引き起こす可能性がある2.
  • 実際、サルモネラやカンピロバクターに関してはPPI投薬に伴って腸管感染症発症リスクが高くなると報告されている3.
  • さらにClostridioides difficileについてはPPIとともにP-CABであるボノプラザンともに発症リスクを高めると報告されている4
  • PPIとプラセボを用いた3年間にわたる17,000例以上を対象とした無作為二重盲検試験でも、PPI投与群で腸管感染症の発症リスクはプラセボに比較して有意に高くなっている5
  • このため、PPIでもボノプラザンでも強力に胃酸分泌を抑制する薬剤を使用すると腸管感染症の発症リスクは高くなると考えられる.

 

どれくらい使用すると有害事象が生じるか

  • PPIやP-CABを用いた数百例規模のプラセボ対照ランダム化二重盲検試験では、数週間の投与期間ではPPIやP-CAB投与患者とプラセボ投与患者の間で有害事象の出現率に差はほとんど認められていない
    2019年にPPIとプラセボの3年間の投薬に伴う有害事象の発生に関して17,000例以上を対象とした前向きのランダム化二重盲検試験の結果が報告された5

    • この研究ではPPI投薬群に多く発生した有害事象は腸管感染症だけであった。

したがってPPIもボノプラザンも数週間までの短期間の投薬では有害事象の出現リスクは低く、安全性の高い薬剤あると考えられる.

 

 

参考文献

  1. 薬がみえる vol.3
  2. 日本内科学会雑誌 2023 年 112 巻 1 号
  3. Hafiz RA, Wong C, Paynter S, David M, Peeters G. The Risk of Community-Acquired Enteric Infection in Proton Pump Inhibitor Therapy: Systematic Review and Meta-analysis. Annals of Pharmacotherapy. 2018;52(7):613-622. doi:10.1177/1060028018760569
  4. Watanabe, Kenta MD1; Shimodaira, Yosuke MD, PhD1; Takahashi, So MD1; Fukuda, Sho MD, PhD1; Koizumi, Shigeto MD, PhD1; Matsuhashi, Tamotsu MD, PhD1; Iijima, Katsunori MD, PhD1. Potent Acid Suppression With Vonoprazan vs Proton Pump Inhibitors Does Not Have Higher Association With Clostridioides difficile Infection. The American Journal of Gastroenterology 116(8):p 1632-1637, August 2021. | DOI: 10.14309/ajg.0000000000001309
  5. Moayyedi P, Eikelboom JW, Bosch J, Connolly SJ, Dyal L, Shestakovska O, Leong D, Anand SS, Störk S, Branch KRH, Bhatt DL, Verhamme PB, O'Donnell M, Maggioni AP, Lonn EM, Piegas LS, Ertl G, Keltai M, Bruns NC, Muehlhofer E, Dagenais GR, Kim JH, Hori M, Steg PG, Hart RG, Diaz R, Alings M, Widimsky P, Avezum A, Probstfield J, Zhu J, Liang Y, Lopez-Jaramillo P, Kakkar AK, Parkhomenko AN, Ryden L, Pogosova N, Dans AL, Lanas F, Commerford PJ, Torp-Pedersen C, Guzik TJ, Vinereanu D, Tonkin AM, Lewis BS, Felix C, Yusoff K, Metsarinne KP, Fox KAA, Yusuf S; COMPASS Investigators. Safety of Proton Pump Inhibitors Based on a Large, Multi-Year, Randomized Trial of Patients Receiving Rivaroxaban or Aspirin. Gastroenterology. 2019 Sep;157(3):682-691.e2. doi: 10.1053/j.gastro.2019.05.056. Epub 2019 May 29. PMID: 31152740.

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