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潰瘍性大腸炎とは?
- 主に大腸粘膜を侵し,びらんや潰瘍を形成する原因不明のびまん性炎症性疾患である.
- 病変は直腸から始まり連続性に広がる.
- 経過中に再燃と寛解を繰り返し,腸管合併症や腸管外合併症を伴うことがある.
- また,長期にわたり広範に大腸を侵す場合は,大腸癌のリスクが高まる.
- 潰瘍性大腸炎の好発は10歳代後半〜30歳代前半であるが,小児や50歳以上の年齢層にもみられる.
- 典型例では粘血便,下痢,腹痛などを呈する.
- わが国での有病率は欧米より低いが近年増加傾向にあり,2016年の統計では患者数は約16万人にのぼる.
潰瘍性大腸炎の発症原因
- 発症原因は完全には解明されていない 1
- 遺伝的素因、環境因子を背景に免疫異常を来し、腸管での免疫寛容が破綻することで慢性腸炎を誘導するとされている。
- GWAS研究からは200以上の疾患関連遺伝子が同定されている。
- 腺底部と基底膜の接着分子であるαvβ6インテグリンに対する抗体が非常に高い感度特異度で検出され、また発症10年前から陽性であることが示されており、疾患との高い関連性のみならず発症リスクさらには発症原因の可能性も示唆される。
潰瘍性大腸炎の身体所見・症状
腹部
- 持続するあるいは反復する下痢、粘液便、血便で疑う
- 直腸に始まる大腸炎なので、クローン病に比較して、血便・粘血便が顕著で、巨大結腸症も多い2。
- クローン病との鑑別にp-ANCAが有用である
- 重症度によっては腹痛・発熱を伴う
腹部以外の所見・症状もチェックする
- 脱水・貧血の有無、栄養状態
- 皮膚・関節など腸管外合併症(結節性紅斑・壊疽性膿皮症、強直性脊椎炎・仙腸関節炎・末梢関節炎などの関節炎、ぶどう膜炎、原発性硬化性胆管炎など)も確認する
潰瘍性大腸炎の治療法について
治療原則
- 重症度や罹患範囲・QOLの状態などを考慮して治療を行う4。
- 活動期には寛解導入治療を行い、寛解導入後は寛解維持治療を長期にわたり継続する。
- なお寛解の判定は臨床症状や内視鏡を用いる。また治療効果判定は、内視鏡的評価に加えて組織学的評価を行うことも考慮する。
- 重症例や全身障害を伴う中等症例に対しては、入院の上、脱水や電解質異常(特に低カリウム血症)、貧血、低蛋白血症、栄養障害などに対する対策が必要である。
- また感染症や血栓症の合併に留意して、D-ダイマー、サイトメガロウイルス、β-Dグルカン、便培養検査(Clostridioides difficileを含む)などの検査を施行する。
- 内科治療への反応性や薬物による副作用あるいは合併症などに注意し、必要に応じて専門家の意見を聞き、外科治療のタイミングなどを誤らないようにする4。
重症左側大腸炎型やステロイド抵抗例に対する薬物療法
1.寛解導入療法
- 薬物療法としては、当初よりプレドニゾロン1日40〜80mg(成人では1〜1.5mg/kgを目安とし、最大で1日80mg程度とする)の点滴静注を追加する(ステロイド大量静注療法)。
- これで明らかな効果が得られたら、プレドニゾロンを40mgまで漸次減量し、その後は1〜2週間毎を目安とし30mg、20mgと病態に応じて減量し、以後は2週間毎に5mg程度ずつ減量する。
- 原則として投与後3ヶ月をめどにプレドニゾロンから離脱するようにする。
- しかし、上記治療が奏功しない場合や、経口プレドニゾロンを投与され1週間程度で明らかな改善が得られない場合(ステロイド抵抗例)は、シクロスポリン(サンディミュン®)持続静注療法、タクロリムス(プログラフ®)経口投与、インフリキシマブ(レミケード®)点滴静注、アダリムマブ(ヒュミラ®)皮下注射、ゴリムマブ(シンボニー®)皮下注射、トファシチニブ(ゼルヤンツ®)経口投与、ベドリズマブ(エンタイビオ®)点滴静注、ウステキヌマブ(ステラーラ®)点滴静注、血球成分除去療法のいずれかの治療法を行う。
- なお、これらの選択肢のうち一つの治療法で効果が不十分な場合に安易に次々と別の治療法を試すことは慎重であるべきで、外科治療の考慮も重要である。
〈インフリキシマブ(infliximab:IFX)〉
- IFXはTNF-α阻害剤で、ヒトTNF-αに対する特異的なマウスの可変領域とヒト免疫グロブリンG1(IgG1) の定常域からなるキメラ抗体である。
- 潰瘍性大腸炎や関節リウマチ、クローン病ではTNF-α阻害剤が治療上重要な位置を占めている。
- IFXは初回投与後さらに第2週、 第6週に投与し、有効な場合は維持療法として以後8週間の間隔で投与が可能である。
- 事前に感染症のチェック等を十分行い、インフュージョンリアクションに対する処置が可能な状態で5mg/kgを2時間以上かけて点滴静注する。
- なお、投与時反応が無ければ3回目以後は、点滴速度を最大で1時間当たり5mg/kgまで短縮することができるが、副作用の発現に注意する。
- インフュージョンリアクションとは、投与中あるいは投与終了後2時間以内に出現する症状で、アナフィラキシー様の重篤なアレルギー症状出現時は投与を中止し、全身管理を行う。IFXの副作用として、免疫抑制作用による結核菌感染の顕性化、敗血症や肺炎などの感染症、肝障害、発疹、白血球減少などが報告されている。また薬剤性肺障害も重要な合併症の一つとして報告されている 5。
2.寛解維持療法
- 以下の5-ASA製剤の経口剤投与または局所治療の単独または併用を行う
- 直腸炎型の寛解維持では局所治療の単独あるいは併用も有用である。
〈経口剤〉
- ペンタサ®顆粒/錠 1日1.5〜2.25g、サラゾピリン® 錠1日2g、アサコール® 錠1日 2.4g、リアルダ®錠1日2.4gいずれかを投与する。
- 維持療法としてペンタサ®顆粒/錠またはアサコール®錠を使用する場合には、アドヒアランスを改善するために1日1回投与が望ましい。
〈局所治療〉
- ペンタサ®注腸1日1gまたはサラゾピリン® 坐剤1日0.5〜1gやペンタサ®坐剤1日1gを使用する。ペンタサ®顆粒/錠とペンタサ®注腸1日1gの2〜3日に1回の間欠投与や週末2日間の併用投与も有用である。
- なお、ステロイド抵抗例や依存例などの難治例では原則としてアザチオプリンまたは6-MP(保険適用外) による寛解維持治療を行う。初めてチオプリン製剤の投与を考慮する患者に対しては、チオプリン製剤による治療を開始する前にNUDT15遺伝子型を確認の上で チオプリン製剤の適応を判断する。
その他治療法
〈血球成分除去療法 (CAP)〉
- 末梢血の活性化した顆粒球・単球の除去や炎症性サイトカインの放出抑制により、炎症の沈静化を図る方法である。
- CAPはステロイド治療有無にかかわらず、中等症から重症のUCに対し治療効果が期待できるため、治療選択肢のひとつとして考慮する。
- 週2回の集中療法では、週1回より寛解導入までの期間が短く、寛解率も向上する6。
参考文献